東京地方裁判所 平成11年(ワ)9982号 判決
原告 遠藤いく子
原告 遠藤幸男
原告 遠藤智幸
原告ら訴訟代理人弁護士 藤本達也
被告 株式会社ライカ
右代表者代表取締役 福原則行
右訴訟代理人弁護士 秋元善行
主文
一 原告らの主位的及び予備的請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 主位的請求
(一) 被告は、別紙生命保険目録記載の死亡保険金三〇〇〇万円の給付を受けたときは、原告遠藤いく子に対して一五〇〇万円、原告遠藤幸男及び原告遠藤智幸に対して各七五〇万円並びにこれらに対する右保険金の給付を受けた日の翌日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(二) 訴訟費用は被告の負担とする。
2 予備的請求
(一) 被告は、別紙生命保険目録記載の死亡保険金三〇〇〇万円の給付を受けたときは、原告遠藤いく子に対して七五〇万円、原告遠藤幸男及び原告遠藤智幸に対して各三七五万円並びにこれらに対する右保険金の給付を受けた日の翌日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(二) 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二当事者の主張
一 請求原因
1 被告は、靴クリームの製造、塗装ワックスの製造及び靴付属商品の販売等を目的とする資本金一一〇〇万円の株式会社である。
2 遠藤智代冶(以下「智代冶」という。)は、昭和四五年に被告に入社し、三〇年近く勤務していたが、平成一〇年一〇月二〇日に脳梗塞により死亡し、被告会社を退社した。
原告遠藤いく子(以下「原告いく子」という。)は、智代冶の妻であり、原告遠藤幸男(以下「原告幸男」という。)及び原告遠藤智幸(以下「原告智幸」という。)は、いずれも智代冶の子である。
3 被告は、平成六年八月一日、明治生命保険相互会社(以下「明治生命」という。)との間で、別紙生命保険目録記載の保険契約(以下「本件保険契約」という。)を締結した。
4 被告は、智代冶の死亡により、本件保険契約に基いて、明治生命から主契約死亡保険金五〇〇万円及び定期保険特約I死亡保険金二五〇〇万円の合計三〇〇〇万円(以下「本件保険金」という。)の給付を受け取ることができるところ、現在に至るまで受取っていない。
5 智代冶は、平成六年七月二二日、「この生命保険契約に基づき支払われる保険金の全部またはその相当部分は、死亡退職金または弔慰金の支払いに充当するものとする。」との付保規定(以下「本件規定」という。)に基づいて締結される本件保険契約の被保険者となることに同意したが、これによって、被告との間で、被告が受領する本件保険金を智代治の死亡退職金または弔慰金として千代治の相続人に支払うとの合意(以下「本件合意」という。)が成立した。
6 仮に本件合意の成立が認められないとしても、智代治は、平成六年七月二二日、被告との間で、被告が本件保険金を受け取った場合にはその半額を相続人に支払う旨合意した。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因の1ないし4は認める。
2 同5のうち、智代冶が本件規定に基づいて締結される本件保険契約の被保険者となることに同意したことは認めるが、本件合意の成立については否認する。
3 同6は否認する。
三 抗弁(主位的請求について)
被告は、原告らに対し、就業規則に基づいて退職金五〇〇万円を支払ったほか、功労金として二二〇万円、弔慰金として三三〇万円を支払った。
なお、朝日生命保険相互会社から、原告らに対して、総合福祉団体定期保険契約に基づく保険金一五〇万円が支払われることとなっているが、原告らにおいて手続未了の状態にある。
四 抗弁に対する認否
いずれも認める。
ただし、本件合意の内容は、就業規則に基づく死亡退職金等とは別個に、本件保険金を死亡退職金または弔慰金として支払うというものであるから、被告の抗弁は主張自体失当であるし、仮に、これが認められないとしても、被告には弔慰金の支払に関する規定はないから、本件保険金を弔慰金として原告らに支払うべきである。
理由
第一主位的請求について
一 請求原因1ないし4の事実は当事者間に争いがない。
二 そこで、請求原因5の事実について検討する。
被告が明治生命との間で本件保険契約を締結するに際して、智代冶が本件規定に基づいて締結される本件保険契約の被保険者となることに同意したことは当事者間に争いがないところ、このような経緯に関与した智代治及び被告の合理的な意思を斟酌すれば、右両者の間で、少なくとも、智代治が死亡した際には被告が社会通念上相当と認められる額の死亡退職金または弔慰金を智代治の相続人に対して支払うことに合意したものと認めるのが相当である。
しかしながら、本件規定の文言からすれば、智代治と被告との間で、就業規則等に基づく死亡退職金等とは別個に、本件保険金を死亡退職金または弔慰金として支払うことまでが合意されていたとは到底解されない上、もともと退職金の額は、その性質上、支給を受ける被用者の地位、職務内容、勤続年数、使用者に対する貢献の度合い等の事情に応じ、またはこれらを要素とした算定基準に従ってその額が決定される筋合いのものであって、これらの要素を無視し、保険金の額といった専らその原資に関する事情に止まる事柄に依拠して退職金の額を定めることは、退職金の性質に反するものであるのみならず、雇用契約の当事者らの合理的な意思にも添うものではないこと、この理は、弔慰金に関しても同様であると解されること、本件規定が保険金の「全部またはその相当部分」を死亡退職金または弔慰金の支払に充当するとしたのも、退職金等が右のようにして決定されるべきことを前提として、そうである以上この額が保険金の額と当然に一致するものではないことによるものであると解されることからすれば、本件規定が死亡退職金または弔慰金の額を定めようとする趣旨までを含むものとは解されない。
三 そして、被告主張の抗弁事実はいずれも当事者間に争いがない。
ところで、前記当事者間に争いのない事実、甲一一ないし二二号証、乙六、一一号証、原告いく子本人尋問の結果によれば、智代治は、昭和四五年に被告に入社して二八年間にわたって勤務し、主に営業販売の仕事に従事して、昭和四九年に営業部次長、昭和五二年に販売部長、昭和五五年に営業部長にそれぞれ就任したこと、その間には、被告の仙台営業所を中心になって立ち上げたり、新規得意先を開拓するなどして各種の表彰状を被告から受けたこと、もっとも、智代治は、昭和五四年六月二三日、九年間分の退職金及び功労金として合計八六万六〇〇〇円の支払を受け、昭和五六年一月二一日にも、中小企業退職金共済事業本部(中退共)から二九万五七八七円の支払を受けていることを認めることができるのであるが、このような事情を斟酌しても、原告らが受領した前記のとおりの死亡退職金や弔慰金等の額が社会通念上相当と認められる金額を下回るとも解されない。
四 そうすると、智代治の死亡退職金や弔慰金等として原告らに支払われるべき金員については既にその支払が完了していると認めるのが相当であるから、原告らの主位的請求には理由がない。
第二予備的請求について
次に、原告らは、智代治が、被告との間で、被告が本件保険金を受け取った場合にはその半額を相続人に支払う旨合意したと主張するところ、甲二二号証及び原告いく子本人尋問の結果中には、智代治が存命中にそのような趣旨の発言をしていたとする供述部分が存する。
しかしながら、そのような合意がされたことを裏付ける証拠は他に何ら存しないのであって、原告いく子の右供述のみから右合意の存在を肯定することはできないというべきである。
したがって、原告らの予備的主張にも理由はない。
(裁判官 土田昭彦)
(別紙)
生命保険目録
保険者 明治生命保険相互会社
被保険者 遠藤智代冶
保険契約者 株式会社ライカ
証券番号 三八-八五四九八三
契約日 平成六年八月一日
保険期間 終身
保険料払込期間 終身
保険料払込方法 年一二回
保険料払込期日 毎月
社員配当金支払方法 積立配当方式
保険種類 ダイヤモンド保険ライフ(定期保険特約付終身保険)
保険料 <1>契約日から一四年間は三万六〇三〇円
<2>平成二〇年の年単位の契約応答日から終身で一万二二三〇円
保険金 <1>契約日から一四年間
主契約死亡保険金五〇〇万円
定期保険特約I死亡保険金二五〇〇万円
<2>平成二〇年の年単位の契約応答日から終身
主契約死亡保険金五〇〇万円
死亡保険金受取人 株式会社ライカ